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SaaSの死についての見解
AI Slack 業務効率化

SaaSの死についての見解

| Mitamura, supervised by Advisor
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はじめに

ここ数年、Anthropic の Claude や OpenAI の ChatGPT をはじめとする生成AIツールの急速な台頭によって、「SaaS はもう不要ではないか」「SaaS は死んだ」という論調を SNS やテックメディアで目にする機会が増えました。「AI があれば業務ツールは自前で作れる」「毎月サブスクを積み重ねる時代は終わった」といった声も少なくありません。

弊社 codist はソフトウェア開発会社として、社内業務はもちろん、クライアント企業様への生成AI活用提案にも積極的に取り組んでいます。しかし、その立場から見ても、SaaS の利用価値が下がったとは全く感じていません。 むしろ、生成AIと SaaS を組み合わせることで得られる効果は、どちらか単独の利用よりも明らかに大きい、というのが現場での実感です。

本稿では、「SaaS の死」という論調に対する codist の見解と、実際に Salesforce Sales Cloud を導入して感じている手応えを共有します。

生成AIが変えたもの

まず前提として、生成AIがソフトウェア開発の景色を大きく変えたことは間違いありません。

個人・小規模チームでの開発ハードルが劇的に下がった

以前であれば数週間から数ヶ月かかっていたプロトタイプが、一人で数日で形になります。アイデアを即座に動くものに落とし込める時代になりました。

コードだけでなく「業務ツール」の自作も容易に

Excel のマクロ、Google Apps Script (GAS)、社内向けの簡易 Web アプリなど、「わざわざ SaaS を契約するほどでもない」業務の自動化が、誰でも手軽にできるようになりました。

この変化だけを見ると、「毎月お金を払って SaaS を使う必要はない」という主張にも一定の説得力があります。

それでも立ちはだかる「個人開発の限界」

しかし、生成AIを活用した個人開発・スモール組織での内製開発を現場で見ていると、ある一定の線を越えたところで必ず壁にぶつかる のも事実です。壁はおおむね以下のようなものです。

1. 認証・認可 (AuthN / AuthZ)

「社内の誰が使えるか」「どの情報に誰がアクセスできるか」を正しく設計・運用するのは、想像以上に難しい領域です。パスワードリセット、MFA、SSO、ロール管理、監査ログ——これらを自作で安全に作り切るのは、生成AIを使っても現実的ではありません。

2. インフラ運用とスケーラビリティ

「動くものを作る」ことと「止まらず動き続けるものを運用する」ことは別物です。スケール、バックアップ、障害対応、デプロイパイプライン、コスト最適化。これらを一人ないし小さなチームで恒常的に担うのは、本業を確実に圧迫します。

3. セキュリティとコンプライアンス

ファイアウォール設定、脆弱性対応、通信・保管データの暗号化、個人情報保護法や GDPR 等の各種法令対応、SOC 2 / ISO 27001 相当のガバナンス。顧客情報や社内機密を扱い始めた瞬間、これらを「知らなかった」では済まされなくなります。

4. データの孤立化

そしてこれが最も見落とされがちな点ですが、自作ツールは放っておくとデータが散らばります。 GAS で作った便利スクリプト、個人のスプレッドシート、誰かのローカル DB——それぞれは便利でも、組織全体で見ると「データがどこにあるか分からない」状態を生みます。これは後から取り返すのがとにかく難しい負債です。

codist の選択: SaaS の積極利用

これらの課題を直視した結果、codist では SaaS を「削るもの」ではなく「積極的に活用するもの」と位置付けています。直近では、Salesforce Sales Cloud を導入し、営業・顧客データの一元管理に取り組み始めました。

SaaS を選ぶ理由はシンプルです。

  • 認証、権限、監査、可用性、コンプライアンスは その道のプロが作ったものに任せる
  • 自分たちは、本来価値を生むべき業務ロジックやお客様との関係構築に集中する
  • そして何より、データを一箇所に集約できる

codist の取り組み: 3 つのステップ

「SaaS vs 生成AI」という二項対立は、そもそも立て方が間違っている、というのが codist の立場です。SaaS は「信頼できるデータの置き場所」、生成AIは「そのデータを扱う賢い手」。この 2 つはむしろ強く補完し合います。

codist が現場で実際に行ったのは、大きく次の 3 ステップです。

ステップ 1: Salesforce Sales Cloud の導入

まず、顧客・営業データの「正しい置き場所」として Salesforce Sales Cloud を導入しました。これまで個人のスプレッドシートや Slack の DM に散らばっていた情報を、一箇所に集約する ことが目的です。エンタープライズグレードの認証・権限・監査・可用性を丸ごと任せられるため、自社はその上で「何を作るか」「どう使いこなすか」に集中できます。

ステップ 2: Salesforce 専用 MCP サーバーの自社開発

次に、生成AIから Salesforce を安全に操作できるようにするため、Model Context Protocol (MCP) サーバーを自社で開発 しました。これにより、Claude のような生成AIから以下のような自然言語リクエストを、Salesforce 上のデータに直接触れながら処理できるようになります。

  • 「今週のホットな商談を洗い出して」
  • 「この取引先との過去の活動履歴を要約して」
  • 「この商談向けのフォローアップメールのドラフトを作って」

SaaS と AI の連携は、この MCP サーバーを境に「デモ」から「日常業務で使える道具」に変わりました。

ステップ 3: Slack への Claude 統合と「プロンプトの見える化」

そして codist はここで止まりませんでした。

ツールを揃えるだけではチーム全体の生産性は上がりません。本当に差を生むのは、「個々のメンバーがどんなプロンプトを書いているか」 です。生成AI時代における業務遂行力は、プロンプトを書く力そのものと言っても過言ではありません。そこで codist では、生成AI の利用プラットフォームを Slack 上の Claude 統合に統一 しました。

個々人がブラウザでこっそり Claude を叩くのではなく、Slack の共有チャンネルでプロンプトを投げ、その場で結果をチームに見せる 運用に業務フローを切り替えています。これにより次のような効果が生まれています。

  • プロンプトの見える化: 誰がどんな問いかけでどんな答えを得たかが、チーム全員にリアルタイムで共有される
  • ナレッジの資産化: 良いプロンプトはそのままチームのテンプレートになり、誰でも再利用できる
  • 相互レビューと Tips の共有: 「この聞き方のほうが精度が高い」「このコンテキストを足すと良い」といった改善提案が自然発生し、チーム全体のプロンプト力が底上げされていく
Slack のスレッド上で Claude に sf-mcp サーバーの機能を問い合わせ、利用可能なツール (search_lead / search_opportunity など) の一覧を回答としてチーム全員で共有している様子

たとえば上のスクリーンショットは、社内チャンネルで「sf-mcp サーバーでどんなことができる?」という問いを Claude に投げたやり取りです。返ってきたツール一覧 (search_lead / search_opportunity / create_activity 等) がそのままスレッドに残り、他のメンバーも同じ情報を起点に次のプロンプトを組み立てられます。プロンプトも AI の回答もすべてチームの目の前にあるので、「あの人だけが上手く使えている」という属人化が起きません。

「個人の知見」から「組織の資産」へ

この 3 ステップを通じて起きているのは、「個人のチャット履歴に埋もれた知見」が「チーム全員が同じ場所で共有・参照できる資産」へと変わっていく ことです。AI を個人で単独に使っていた時代には得られなかった、組織としてのレバレッジがここで初めて効いてきます。

現時点での効果: 37.4%の業務効率化

効果測定はまだ途上ですが、現時点での社内計測では、SaaS + 生成AI + MCP 連携の組み合わせによって、業務効率がおよそ 37.4% 向上 しています。これは、

  • SaaS だけを使っていた時
  • 生成AIだけを使っていた時

のどちらと比較しても、明確に大きな差分です。単独利用では埋もれていた「データの共有可能性」と「AI による横断的な操作」が掛け算になって初めて出る数字だと感じています。

ただし、SaaS がすべてではない

ここまで SaaS の価値を強調してきましたが、最後にひとつ大切な補足をさせてください。

SaaS は「すでに構成された便利なプラットフォーム」ですが、それがすべての企業様にそのままマッチするとは限りません。 これは紛れもない事実です。業界特有のワークフロー、独自の商習慣、既存システムとの密な連携——こうした要件を突き詰めると、「既製品の SaaS ではどうしても最後の 2 割が埋まらない」というケースは必ず存在します。

そうした場合、内製化を検討するタイミングが来ます。 本当にコア業務の差別化要因となる部分は、自社でコントロールできるシステムとして作り込んだほうが、長期的に強くなるのも事実です。

codist ではこの状況も前向きに捉えています。単に他社の SaaS を導入する支援だけでなく、企業様の社内システムそのものを「SaaS 的に作る」取り組み——つまり、認証・権限・監査・API・データ集約といった 「SaaS が当たり前に備えている良さ」を、お客様独自のシステムの中にきちんと持ち込む支援——にも積極的に取り組んでいきます。

「SaaS を使う」か「スクラッチで作る」かの二択ではありません。お客様の業務に最も合うかたちで "SaaS 的な土台" を届けること が、私たちが目指している次のフェーズです。

まとめ: SaaS は死なない、むしろ輝く

「SaaS の死」というフレーズはキャッチーですが、現場で手を動かしている立場から見ると、実態はむしろ逆です。生成AIが普及したからこそ、データが集まり、API / MCP で外部から安全に叩ける信頼できる置き場所としての SaaS の価値はむしろ上がっています。

  • 個人で何でも作れる時代になった。それは正しい。
  • しかし、組織としてデータを預け、セキュリティを担保し、チームで使い倒す土台は依然として必要。
  • その土台として、SaaS は死んでいないどころか、AI と組み合わせることで新しいフェーズに入っている。

codist は今後も、SaaS と生成AIを対立ではなく組み合わせとして捉え、クライアント企業様と共に「AI 時代における最適な SaaS 活用」を模索していきます。