はじめに
みなさん、こんにちは。
さっそくですが、質問です。みなさんはAIを「使って」いますか? それとも、AIに「使われて」いますか?
私は本業では外資系企業で上級エンジニアをしており、その傍ら、ご縁があって codist で技術顧問を務めています。そのため、お客さまとの要件の打ち合わせや技術的なご相談の場に同席する機会が多くあるのですが、最近つくづく感じることがあります。それは、「AIに使われている」方が非常に多い、ということです。
今日は、そのことを象徴するようなお話をひとつご紹介します。具体的な企業名は伏せますが、実際にあった話です。
「AIを入れたのに、合格率が下がった」
あるお客さまが、社員のリスキリング・資格取得を支援するため、AIをAPIで組み込んだ学習支援アプリを自社内向けに開発されていました。わからないことを質問すれば、AIがすぐに答えてくれる。今どきの、よくできたアプリです。
導入後、ROI(投資対効果)を確認するために、社員の資格取得数を前年と比較(YoY)で実測したところ、驚きの結果が出ました。
資格取得者は、一切増えていない。それどころか、資格試験の合格率はむしろ下がっていたのです。
お客さまとしては当然、「AIへのプロンプトが悪いのか」「アプリのロジックに誤りがあるのか」という発想になります。そこで私に相談がきた、というわけです。
アプリは、何も間違っていなかった
ご聡明なみなさまであれば、もうお気づきかもしれません。結論から言うと、このアプリ自体には何の問題もありませんでした。問題は、使う側にあったのです。
アプリのロジックの見直しやプロンプトの精査に入る前に、まず利用者の方々にフィードバックをいただきました。すると、返ってきたのは好意的な意見ばかり。中でも印象的だったのが、こんな回答です。
疑問に思ったことをすぐに的確に答えてくれるので、学習がはかどります
なお、この回答をくださった方は、つい先日、某クラウドベンダーの資格試験に、誠に残念ながら落ちたばかりの方でした。
学習は非常にはかどっている。それなのに、試験には受からない。これはいったい、どういうことでしょうか。
試しに、自分で受けてみた
私は不思議に思い、この2ヶ月の間に、社員のみなさんが不合格になっていた試験のうち2つを、自分で受験してみました。結果は、2つとも合格。受験した実感として、試験自体はさして難しいものではありません。
きちんと学習すれば受かるはずの試験に、「人類の英知」とも言えるAIを使いながら、なぜ落ちるのでしょうか。
答えは単純です
AIを「使って」いないからです。AIに「使われて」いるからです。
聞けば、すぐに答えてくれる。――でも、その答えが合っているか、確かめましたか?
頼めば、アプリを作ってくれる。――でも、そのアプリ、本当に動きますか?
求めれば、アイディアを出してくれる。――でも、それは本当にオリジナルですか?
学習の文脈で言えば、こういうことです。わからないことをAIに聞くと、答えが即座に返ってくる。疑問がその場で解消されるので、「学習がはかどっている」という実感だけは強烈に得られます。しかしその裏で、自分の頭で悩み、調べ、間違え、修正する――記憶と理解が定着するために本来必要なプロセスが、まるごとスキップされてしまっているのです。
残るのは「わかったつもり」だけ。そして試験会場に、AIは連れて行けません。
これは学習アプリに限った話ではありません。AIが書いたコードを検証せずに本番に入れる。AIが出した企画をそのまま会議にかける。形は違えど、すべて同じ構図です。AIの出力をただ受け取るだけの人は、便利さと引き換えに、自分の頭で考える機会をAIに明け渡してしまっている。私はこれを「AIに使われている」状態と呼んでいます。
AIを「使う」側に回るには
では、どうすればよいのでしょうか。実は、難しいことではありません。主導権を自分の側に置く。それだけです。学習の場面であれば、たとえば次のような使い方です。
- 答えを聞く前に、まず自分の仮説を立てる。AIは「答え合わせ」に使う
- AIに教えてもらうのではなく、自分が説明して、AIに添削してもらう
- AIに問題を作らせて、自分が解く
同じアプリ、同じAIでも、使い方をこちら側で設計するだけで、AIは「考える機会を奪う存在」から「考える回数を増やしてくれる存在」に変わります。
どのAIベンダーも「AIと人間が協業する時代が来た」と言います。ですが、その意味を本当に理解したうえでAIの手綱を握れている方が、この国にどれだけいるでしょうか。
おわりに
AIは最高のツールです。ただし、ツールなのです。道具です。そして道具は、使いこなす人がいて初めて価値を生みます。
この道具とどう付き合っていくかを、皆さんと一緒に見定めていくこと。それが codist が現在考えている「伴走」のモデルであり、私がいま最も心を惹かれている分野です。
「うちもAIに使われているかもしれない」と少しでも思われた方、この記事にご興味を持たれた方は、ぜひ codist までお問い合わせください。皆さんとお話しできるのを楽しみにしています。